「え、うちの学校って、部活強制だったの!」
初耳なんですけどー!


第14話  部活に入ってみる




ビックリ事実に、うがっ! と口を大きく開けて、海堂くんを見つめる。海堂くんは、初耳だったのか、と小さくいってそんで、はんっ、と鼻で笑いながら(う、うぐぐ…)「ついでに委員会も強制だ」「マジで!」ああだから、たんにん先生に強制的に図書委員に入れられたのね!

「知らなかったの」といわれて、「まったく!」「初日の話を聞いていなかったんじゃない」「それっぽい!」「最悪だね」「うっはー、返すコトバもねぇー!」

トコトコトコ。コンクリート式の廊下を歩いて、緑色のフェルトが貼られた板を見た。『部活動掲示板』、大きな文字で、わかりやすく貼られた真っ白い紙。……なるほど、ここからえらべってか。

「なんか多いねー」
「そりゃな」
「ふーん」

「で、海堂くんは、どこに入ってるの?」とチラリと彼を見ながらいったら、「え!」と意外なほどでっかい声を上げて、目をまん丸にしている彼。……え、なに。

「…俺は、テニス部、だけど」

ちょこっと頬を赤くして、チラリ、と一回こっちを見たかと思うと、遠くへまた視線を投げかける。……なんなの君なにがしたいの。

も、入」
「よっしゃ書道部にしよーっと」
「なんでだよ!」

あ、なんか怒られた。




□□□



よろしくお願いします。と畳の部屋で正座しながらぺこり。薄化粧が素敵な先生(顧問の真知田先生だ)は、にっこりと笑って「こちらこそ」といった。
部員0人。顧問1人。やっとの事で、部員も1人。

「6年生が卒業しちゃってから、部員が1人も入らなかったのよ」、とまたにっこり微笑みながら話す先生は素敵だ。
じゃあ早速。となって、硯を出して、ショリショリショリ、と墨汁を作る。実は私、前の世界じゃ習字は大の得意だったのだ。こっちに来てからまったくしなくなったその特技。やるのはものすごくドキドキさ!

「じゃあ好きな食べ物を書いてみましょうか」
「あいっさー!」

いざ! 袖を肘上までまくって、ぺろり。と唇をなめる。見える、見えるぞ、真っ白い紙の上に踊る文字が! 私に書いてくれと訴えかける!「ほわちゃちゃちゃー!」

一本、二本と増えていく文字。白と黒の境界線。
これでフィニッシュ! とぴっ、と筆をはらった!

「じょうできー!」

見るも見事な『てんぷら』!

あれだね、ぷの部分の丸がね、いいかんじなのだよ。あと、らの丸くなってる部分とか、最新の注意をかけて書いたんだ。
「どうですかせんせい」と声を掛ける前に、先生が、ぷるぷると口元を当てて震えているのが見えた。心なしか目が潤んでいる気がする(いやー美人っていいな)

「す、」
「す?」
「凄いわさん!」
「は?」
「なんて素敵なてんぷらなの!」
「へ」

先生は頬をピンク色に変えながら、ぷの部分の丸がいいとか、らの丸くなってるのがいいとかぺらぺらぺらっとまくし立てる(…うん、うれしいんだけど、え、ちょっと待って)
「これは是非コンクールに出展しなきゃ!」(え、てんぷらを!)

「いやいややめてくださいちょっと調子にのっちゃっただけなんで」「いいえダメよ書道部顧問としてこれだけは譲れない!」「何だよこもんとしてってちょ、てんぷら返せー!」



こうして。見事に金と書かれたお花マークをペタリと貼られた私のてんぷら。
そのまま私は、天才小学生として、名をはぜる事になってしまったのでした。
(今まで平凡であろうと、くろうしてたってのに…っ!)(こんな、びみょーなトコでふみ外しちまうとは!)(っていうかもっとマシな文字かいときゃよかった!)




  


2007.08.07