「やあガイ、可愛い彼女を捕まえたじゃないか」
ポン、と使用人仲間に肩を叩かれた。そんなことを言われたら、ガイはうっすらと苦笑するしかない。
傍から見れば、やっぱ青春 
「……」
ガイはフウ、と重いため息をつきながら、隣にて、優雅にベンチに腰掛けるメイドを見つめた。彼女は長い髪の毛を片手でかきあげ、もう片方の手を小指をつん、と突き立てながら、紅茶のカップを持ちあげた。の喉が、こくりと動く。優雅だ。気品あふれる。美人だ。
素敵な女性だ 見かけだけ。
今も道を歩く男性が、ちらりとに目を向けた。これで三人目だ、とガイは心の中でため息をつく。同情を隠し得ない。「……いや、」 ガイはゆっくりと呟いた。その瞬間、「テメェの股にぶら下がってるもん引きちぎってやるぞこのクソホモ野郎が」「涙が出てくるからやめてくれないかな」 唐突にの口から飛び出た卑猥な言葉に、ガイは口元をひきつらせた。何度見ても、聞いても慣れない。
だいたいガイはホモじゃない。女性が苦手なだけだ。女性が大好きなのに触れないという、なんとも末期的な病にかかっている。治せるものなら治してみたい。ずっとずっと、そう思って だからを見たときは、運命だと感じたのだ。近づいても、触っても体が震えない女性。彼女だけが女性恐怖症を感じないとは、きっとそういうことなのだとロマンチストに考えた。
ガイは数週間前の自分の思考を思い出し、たまらない気恥ずかしさを感じた。それを飲み込むように、ごくりとコーヒーを飲みこんだ。苦い。まるで、人生を表しているかのような。涙が出てきた。
まさかが男だったなんて。
うっかりの、いいやの玉と棒を握って気付いてしまった事実なのだが、そんなことがなければガイは一生気づくことはなかっただろう。気づきたくなかった。真実とは時に残酷だ。これは恋だ、と思っていたが、が男だと知った今はなんてこともない。彼女、いいや彼に感じる気持ちは、友情のみで、男女のそれではない。
ただ自分が勘違いしていただけなのだ。ぶっちゃけ言ってて恥ずかしいが、この情けない体質のおかげでまともな恋愛も遅れずにいた自分は、ころりと簡単にだまされてしまった訳だ。
「」
ガイは彼の本名を口出した。はにっこりと天使のような微笑みを口元にたたえながら、ガンガンガン、と激しく人差し指を机に連打する。怖い。「」「……す、すまん」「わかりゃあいいんだよ。仕事モードとプライベートモードは別なんだっつの」「なんだか複雑だなぁ」
ひょんなことから、の本当の性別を知ってしまったガイは、何故だかとの交友関係を持つことになってしまった。というか、彼の性別を知ってから一週間ほどたったころから、の方からふらふらとガイをお茶へと誘ってくるようになったのだ。断る理由もないので、ガイは常にイエスと答える。
まあおそらく、ガイがの秘密、つまり本当の性別を他人へと言いふらさなかったことで、皮肉なことに、ガイは彼の信頼を勝ち取ったらしい。ガイからしてみれば、他人の秘密をいちいち言いふらす意味がわからないし、ファブレ夫妻へと、いちいちそのことを報告する義理はないし、だいたい、どこからどう見ても完璧に女性なの性別を、一体どうして知ったのかと訊かれてしまえば、ガイは答えることができない。棒と玉を握りました。ショッキングな台詞である。
「今更なんだが」
「なあに?」
「何故君は女性の格好をしているんだ?」
何か深い意味があってのことなのだろうか、と考え、今の今まで、ガイは多少気にしつつも口に出すことはなかった。もちろん、が言いたくないことならば、言う必要はない。けれども多少は気になるというのが男心だ。ガイは別に、そこまで気にしていることじゃない、とにアピールするように、コーヒーを一口頂く。やっぱり苦い。人生のようだ。二度目の台詞。
はふっと表情の色を落とした。ふっと伏せられたまつ毛が、ふるふると美しげに震える。ガイはぎょっとした。言いたくないことなら言わなくていい。そうはっきりと言おうとした瞬間、は可憐な小さな唇を、ゆっくりと開く。「……私って、……美しすぎるから…………」 とりあえず湖に身投げしたくなった。あまりにも回答が予想外すぎて。
「……え? うん、ええ?」
ガイは口元に笑みをはりつけながら、馬鹿みたいに同じ台詞を繰り返す。ごめん、今なんてった? 「この美貌……この気品……恐ろしい、俺ってば、自分自身が恐ろしい……」 なんか気づけば一人称が俺に戻っているし。
ガイはゆっくりと、人差し指を自分の額へとつける。つまり、「趣味?」「ちげぇよ人の話を聞けよ」「いや、かなり真面目に聞いてたつもりなんだが」「じゃあ耳かっぽじってもっかい聞け」
はぴしりとガイの指を向ける。「つまりこれはなぁ」 ごくり、とガイが唾を飲み込んだ。
「変態避けだ」
予想以上の答えだった。
つまり話は簡単である。はそのあまりの美貌のために、何度も変態に襲われた。老若男女だと言うから恐ろしい。そして彼らは考えるのだ。「女ならしゃれにならないが、男なら、ちょっとくらい悪戯しちゃっても、問題ないだろう」 問題オオアリだ。
「何度お尻の初めてを奪われそうになったことか……」 は机の上に膝をつけ、手のひら同士をまじあわせる。もしガイが、異世界のアニメをしっていたのなら、ゲンドウポーズ! とか思ったろう。そんなもん知る訳ないが。「俺は気付いたんだ。だったら女になればいい。いいか、男を狙う女とか、男を狙う男なんて、たちが悪いのが多いんだ。まだ女として男に狙われるほうがマシなんだよ。相手がノーマルだから対処しやすいし、こっちをなめてかかるから撃沈なんて一発だ」
実際にガイはが男を沈めている様子を、この目でしかと見たので、笑えない話だった。
美人すぎるってのも、大変なんだなぁ、とガイはうっすらと考えた。それだというのに、勝手に彼を好きだと勘違いしてしまった自分が情けない。彼の重荷になるところだった。ガイはふるふると首を振り、この話は終わりにしよう、と言おうとしたとき、はぐいっと拳を握る。なんだかまだ主張したいことがあるらしい。
「いいかガイ、俺は思ったんだ。女になったとしても、男はわらわら言い寄ってくる。まあ別にそれは俺が美しすぎるからで、あいつらに罪はないが、なにぶん相手をするのがめんどくさい。どうすれば、彼らの相手をせずにすめるか。簡単にあしらえるか。そう、俺は気付いた。俺は、俺は…… 高嶺の花になる!!!」
もしガイが、異世界の漫画を知っていれば、海賊●、とか、ポケ●ンマスターっぽいな。とか思っただろうけど、そんなことは知るよしもないので、彼はぽかん口を開けて、を見つめた。
「高嶺の花になっちまえばこっちのもの! 男たちは俺の高貴で触れることもままならない、遠くで見ているだけで満足しちまう、そんな女を目指すからな! いいかガイ、お前も協力しろよ。俺がどうやったらいい女になるか、男視点で、俺をバシバシ教育してやってくれ!」
よろしくなッ! とぐいっと親指をこっちに向けるを見て、ガイは思った。
もしかして、それがしたくて、俺をお茶に誘いました?
「やあガイ、可愛い彼女を捕まえたじゃないか」
ガイは本日も同僚に、嫌味半分、お祝い半分に肩を叩かれた。ガイは思わず苦笑した。「俺とはそんなんじゃないさ」「またまた、謙遜しちゃって」「いや本当に……」 なんていうか、女王様と主従、みたいな。一瞬嫌な言葉が思い浮かんだ。ガイはなんだか手綱を握られっぱなしな気分である。まあ、友人が増えたと思えば悪い気はしない訳だけど。
そんなガイの苦笑を見て、同僚は疑い深げにガイを見た。「……うん? 本当に違うのか?」「ああ、違う」「そうか、そうかぁ。だったらまだ、俺にもチャンスはあるのかなぁ」 って綺麗だもんなぁ、と二へっと同僚の顔はだらしなくゆがんだ。
ガイは思わず、慌てて同僚を止めた。「い、いややめといた方がいい。彼女にしようと思うんなら、別の子の方が絶対いいぞ?」 なんてったって彼女は男である。彼女ですらないし。彼だし。
そんなあわあわした様子のガイを、同僚は面白げに見つめた。「なんだ、やっぱりそうなんじゃないか」 彼はニマニマと口元を笑わせながら、「まあ大丈夫さ、他人の彼女にゃ手を出さんよ」
いやまあ、違うんですけど。
ガイはなんとも言えない気持ちで、おめでとうと肩をたたかれながら、ぬるい笑みを浮かべた。
あんまりおめでたくない。
← ■ →
2011.06.09
ポン、と使用人仲間に肩を叩かれた。そんなことを言われたら、ガイはうっすらと苦笑するしかない。
「……」
ガイはフウ、と重いため息をつきながら、隣にて、優雅にベンチに腰掛けるメイドを見つめた。彼女は長い髪の毛を片手でかきあげ、もう片方の手を小指をつん、と突き立てながら、紅茶のカップを持ちあげた。の喉が、こくりと動く。優雅だ。気品あふれる。美人だ。
素敵な女性だ
今も道を歩く男性が、ちらりとに目を向けた。これで三人目だ、とガイは心の中でため息をつく。同情を隠し得ない。「……いや、」 ガイはゆっくりと呟いた。その瞬間、「テメェの股にぶら下がってるもん引きちぎってやるぞこのクソホモ野郎が」「涙が出てくるからやめてくれないかな」 唐突にの口から飛び出た卑猥な言葉に、ガイは口元をひきつらせた。何度見ても、聞いても慣れない。
だいたいガイはホモじゃない。女性が苦手なだけだ。女性が大好きなのに触れないという、なんとも末期的な病にかかっている。治せるものなら治してみたい。ずっとずっと、そう思って
ガイは数週間前の自分の思考を思い出し、たまらない気恥ずかしさを感じた。それを飲み込むように、ごくりとコーヒーを飲みこんだ。苦い。まるで、人生を表しているかのような。涙が出てきた。
まさかが男だったなんて。
うっかりの、いいやの玉と棒を握って気付いてしまった事実なのだが、そんなことがなければガイは一生気づくことはなかっただろう。気づきたくなかった。真実とは時に残酷だ。これは恋だ、と思っていたが、が男だと知った今はなんてこともない。彼女、いいや彼に感じる気持ちは、友情のみで、男女のそれではない。
ただ自分が勘違いしていただけなのだ。ぶっちゃけ言ってて恥ずかしいが、この情けない体質のおかげでまともな恋愛も遅れずにいた自分は、ころりと簡単にだまされてしまった訳だ。
「」
ガイは彼の本名を口出した。はにっこりと天使のような微笑みを口元にたたえながら、ガンガンガン、と激しく人差し指を机に連打する。怖い。「」「……す、すまん」「わかりゃあいいんだよ。仕事モードとプライベートモードは別なんだっつの」「なんだか複雑だなぁ」
ひょんなことから、の本当の性別を知ってしまったガイは、何故だかとの交友関係を持つことになってしまった。というか、彼の性別を知ってから一週間ほどたったころから、の方からふらふらとガイをお茶へと誘ってくるようになったのだ。断る理由もないので、ガイは常にイエスと答える。
まあおそらく、ガイがの秘密、つまり本当の性別を他人へと言いふらさなかったことで、皮肉なことに、ガイは彼の信頼を勝ち取ったらしい。ガイからしてみれば、他人の秘密をいちいち言いふらす意味がわからないし、ファブレ夫妻へと、いちいちそのことを報告する義理はないし、だいたい、どこからどう見ても完璧に女性なの性別を、一体どうして知ったのかと訊かれてしまえば、ガイは答えることができない。棒と玉を握りました。ショッキングな台詞である。
「今更なんだが」
「なあに?」
「何故君は女性の格好をしているんだ?」
何か深い意味があってのことなのだろうか、と考え、今の今まで、ガイは多少気にしつつも口に出すことはなかった。もちろん、が言いたくないことならば、言う必要はない。けれども多少は気になるというのが男心だ。ガイは別に、そこまで気にしていることじゃない、とにアピールするように、コーヒーを一口頂く。やっぱり苦い。人生のようだ。二度目の台詞。
はふっと表情の色を落とした。ふっと伏せられたまつ毛が、ふるふると美しげに震える。ガイはぎょっとした。言いたくないことなら言わなくていい。そうはっきりと言おうとした瞬間、は可憐な小さな唇を、ゆっくりと開く。「……私って、……美しすぎるから…………」 とりあえず湖に身投げしたくなった。あまりにも回答が予想外すぎて。
「……え? うん、ええ?」
ガイは口元に笑みをはりつけながら、馬鹿みたいに同じ台詞を繰り返す。ごめん、今なんてった? 「この美貌……この気品……恐ろしい、俺ってば、自分自身が恐ろしい……」 なんか気づけば一人称が俺に戻っているし。
ガイはゆっくりと、人差し指を自分の額へとつける。つまり、「趣味?」「ちげぇよ人の話を聞けよ」「いや、かなり真面目に聞いてたつもりなんだが」「じゃあ耳かっぽじってもっかい聞け」
はぴしりとガイの指を向ける。「つまりこれはなぁ」 ごくり、とガイが唾を飲み込んだ。
「変態避けだ」
予想以上の答えだった。
つまり話は簡単である。はそのあまりの美貌のために、何度も変態に襲われた。老若男女だと言うから恐ろしい。そして彼らは考えるのだ。「女ならしゃれにならないが、男なら、ちょっとくらい悪戯しちゃっても、問題ないだろう」 問題オオアリだ。
「何度お尻の初めてを奪われそうになったことか……」 は机の上に膝をつけ、手のひら同士をまじあわせる。もしガイが、異世界のアニメをしっていたのなら、ゲンドウポーズ! とか思ったろう。そんなもん知る訳ないが。「俺は気付いたんだ。だったら女になればいい。いいか、男を狙う女とか、男を狙う男なんて、たちが悪いのが多いんだ。まだ女として男に狙われるほうがマシなんだよ。相手がノーマルだから対処しやすいし、こっちをなめてかかるから撃沈なんて一発だ」
実際にガイはが男を沈めている様子を、この目でしかと見たので、笑えない話だった。
美人すぎるってのも、大変なんだなぁ、とガイはうっすらと考えた。それだというのに、勝手に彼を好きだと勘違いしてしまった自分が情けない。彼の重荷になるところだった。ガイはふるふると首を振り、この話は終わりにしよう、と言おうとしたとき、はぐいっと拳を握る。なんだかまだ主張したいことがあるらしい。
「いいかガイ、俺は思ったんだ。女になったとしても、男はわらわら言い寄ってくる。まあ別にそれは俺が美しすぎるからで、あいつらに罪はないが、なにぶん相手をするのがめんどくさい。どうすれば、彼らの相手をせずにすめるか。簡単にあしらえるか。そう、俺は気付いた。俺は、俺は……
もしガイが、異世界の漫画を知っていれば、海賊●、とか、ポケ●ンマスターっぽいな。とか思っただろうけど、そんなことは知るよしもないので、彼はぽかん口を開けて、を見つめた。
「高嶺の花になっちまえばこっちのもの! 男たちは俺の高貴で触れることもままならない、遠くで見ているだけで満足しちまう、そんな女を目指すからな! いいかガイ、お前も協力しろよ。俺がどうやったらいい女になるか、男視点で、俺をバシバシ教育してやってくれ!」
よろしくなッ! とぐいっと親指をこっちに向けるを見て、ガイは思った。
もしかして、それがしたくて、俺をお茶に誘いました?
「やあガイ、可愛い彼女を捕まえたじゃないか」
ガイは本日も同僚に、嫌味半分、お祝い半分に肩を叩かれた。ガイは思わず苦笑した。「俺とはそんなんじゃないさ」「またまた、謙遜しちゃって」「いや本当に……」 なんていうか、女王様と主従、みたいな。一瞬嫌な言葉が思い浮かんだ。ガイはなんだか手綱を握られっぱなしな気分である。まあ、友人が増えたと思えば悪い気はしない訳だけど。
そんなガイの苦笑を見て、同僚は疑い深げにガイを見た。「……うん? 本当に違うのか?」「ああ、違う」「そうか、そうかぁ。だったらまだ、俺にもチャンスはあるのかなぁ」 って綺麗だもんなぁ、と二へっと同僚の顔はだらしなくゆがんだ。
ガイは思わず、慌てて同僚を止めた。「い、いややめといた方がいい。彼女にしようと思うんなら、別の子の方が絶対いいぞ?」 なんてったって彼女は男である。彼女ですらないし。彼だし。
そんなあわあわした様子のガイを、同僚は面白げに見つめた。「なんだ、やっぱりそうなんじゃないか」 彼はニマニマと口元を笑わせながら、「まあ大丈夫さ、他人の彼女にゃ手を出さんよ」
いやまあ、違うんですけど。
ガイはなんとも言えない気持ちで、おめでとうと肩をたたかれながら、ぬるい笑みを浮かべた。
あんまりおめでたくない。
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2011.06.09