re/ject

「っていうか結構冗談にならないレベルで犯罪だよな、って」
今日も今日とて、ガイとのお茶タイムで優雅な日々である。


 変態ですよ、メイドさん 



「ア? 俺の? どこが? この完璧美麗でパーフェクトな俺様が?」
、素が出てるぞ
「だから私の名前はって言ってるでしょ☆ もうやだガイのおっちょこちょいなオタンコナスぅ☆」
「台詞は可愛らしいけど高速で拳を振りまわすのはやめてくれないか!?」

基本的に常にガイの方が立場が低いのだが、これもそれも、彼の広い心がなせる技である。並みの男性ならばとっくの昔に沸点を通り越していそうなの口の悪さだが、ガイはほがらかに受け流すことのできる男であった。ある意味それが彼の悲劇でもあったのだが。
いつの間にやらとは彼女と彼氏の扱い。ありえねー。いくら美人ってったって男はありえねー。とか枕を涙で濡らす日々なのだけれど、周りの人間からしてみれば、「ガイったらいつの間に美人な彼女を捕まえたのかしら、プンプン」と言った感じだ。こうしてガイの周りから女性が消えていく。恋のつぼみが実ることなくハラハラと散って行く。泣いちゃいそう。


「どうしたのかしらガイさん? コーヒー片手にむせび泣く男は気味が悪いわよ?」
「いや、この苦さを感じることこそ、人生の深化なんだろうな……って思ってね」
「なんか前も同じこと言ってた気がするけどどうした? ボケた? 脳味噌ノックして起こしてあげようか?」
「力の限り拒否する」

あらそう残念ねー。とは優雅に紅茶を飲みこんだ。やっぱり冷たいものはセイロンよねー。とか小指をちょんと立てていた。

話は戻るがこの女、いや男、かなりの変態である。なんてったって(事情がどうであれ)男のくせに女装してメイドをしているのだから。もちろんファブレ夫妻には秘密のドッキドキ〜一歩間違えれば即死刑タイム決定〜なのである。ガイ自身も彼女……いや彼の秘密を隠していたとなれば、それ相応の懲罰は下りそうだが、そこらへんのことはあんまり気にしていない。そのときはそのときだし、お互いが黙っていれば済む話だ。はペラペラと口の軽い女……いや男ではない。ところでさっきから彼の性別をうっかり忘れそうになって怖いのだが。

「何? 俺が犯罪者の変態だって? ハンッ! ガイ・セシル。一体どんな証拠があってそんなことを言っちゃう訳だいこの男は」
「証拠も何も今まさに君の股の間からぶら下がっている玉と棒が」
「教育的指導……!!!」

「婦女子に対してその発言はセクハラだぞ! おぞましい!!」と自分自身をぎゅっと抱きしめながらブルブルと体を震わせるの方が、ガイにとっては恐ろしい。頭からかぶせられた紅茶がべとべとと服にしみ込む。っていうかどこのどなたが婦女子が。あえていうなら夫男子だろうが。どう読むんだよわかんねーよ。


まあさっきの台詞は、自分でもちょっとまずかったかな、とポケットの中からハンカチを取り出して頭をフキフキ、体をフキフキ。

「証拠はとにかく、君は男のくせに、他の女性のメイド仲間とともに寝起きしているだろう? これは見つかったらまずい……という以前に、ちょっとモラルがないんじゃないか? なんてったって、相手の女性のその、プライベートな部分を見てしまう……と言うか……」
「まあ下着姿なんて見ちゃうのは日常茶飯事だな」
「人が敢えて濁した部分を堂々と……!!」

やっぱりそうでしたか!!
これで彼、がノーマルな人間ではなく、男性が好きで、女性の肢体にはまったくもって興味がない、というのならまあそこまで問題はある……けど、ギリギリセフトというか、アウフというか。(セー……フト!! アウ……ッフ!!)
ガイはハッとして、先ほどのと同じく、ぎゅっと自身の体を抱きしめ、気持ち正面の彼から体を離す。まさか、狙われて……「ねーよ。俺は激しく女の子が大好きだよ。ねーよ!」 なかったらしい。よかったよかった……「じゃないだろう。だったらもっとまずいじゃないか」

それはいけない。どうかんがえたっていけない。相手の女性が可哀そうだ。君は罪悪感が湧かないのか……といった、至極正論をに向かってとくとくと語った。は若干鬱陶しそうに。けれどもしょうがないとばかりに口元をつんとひねらせガイの話を静かに聞き、うなだれた。案外素直な所もある。


「だから、どんな理由があろうとも、女の子の嫌がることはしちゃダメだ」
「うん……そう、だよな。俺もうすうす感じてたんだ」
……」
「同僚の女の子達の胸を見回して、ヒャッホウあの子着やせするじゃねぇかテンション上がるぜホッホウ!! なんて、考えちゃ、駄目だよな……?」
「どう考えたってアウトだ……!!」

フォローの仕様がありません……!!

は自身の飽満な胸元に、すっと手を差し込み、一枚の紙切れをテーブルの上に乗せた。ところで些細な疑問なのだが、彼の膨らんだ胸元には、一体何を詰め込んでいるのだろう。あんパンとか?

「この紙の中に、同僚のメイド達の胸のサイズ一覧を、俺は書きこんでいる……」
「ま、まさかそんな、なんてことを……それは犯罪だ!!」
「だから! だから、ガイ。俺はこの紙を処分することに決めた。自分では、未練があって処分ができない……だから、ガイ。俺は君に任せる。この紙を、このいやらしい権化を、君の手で焼却してくれ……!!」

頼む。それだけは呟き、サッと席から立ち上がった。ガイが止める間もなく、折りたたまった白い紙きれをそっと一枚、テーブルに残して去ってしまった。

ガイは生唾を飲み込んだ。自分は彼に信用されているらしい。わかった、それに答えよう。このいやらしい権化である紙きれを、男のロマンスを、自分の手によってこの世から永遠に消し去ってやろうではないか。
そう頷き、紙きれを手の中にそっとしまい込む。その瞬間、ガイの中で悪魔が囁いた。
    ちょっとくらい覗いても、いいんじゃないか? そう、ちょっとくらい。

だってこの中にはロマンスがつまっているんだ。女性の胸というガイには到底到達することのできない、パラダイス。え? サイズ? 何それ興味ないよ胸は全部素敵じゃないか! と思いつつも、やっぱりちょっとくらい……ちょっとくらい、見ちゃっても…………ちらり。


『ガイさんのえっちぃ☆』


白い紙の真ん中に、ぽつんと描かれた台詞を見て、ガイは頭を抱えて死にたくなった。パラダイスの文字など欠片も書かれていない。そしてハッとして周りを見回すと、カフェテラスの壁に隠れるように、半身をそっと覗かせ、くすくす口元に手を置きにまついているどこぞの変態が見える。「やだもう……☆ 男の子ってみんなスケベなんだからぁ……☆ 身の危険感じちゃぁう……☆」
何があっても君だけは襲わないから安心してくれとつっこみつつも、悪魔の策略にはまった自分自身が恥ずかしくて、ガイは顔を真っ赤にしたまま頭を抱え込んだ。

「ガイさんのえっちぃー」
「男はみんなえっちなんだよ……」
「男はみんなそう言うよなー。やーらしーい」
「きみも立派な男だろうがぁ……!!」

  
2011.06.27