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「俺、美少女って言葉にときめく」


美しさは罪ですよね 


唐突に彼は何をのたまい始めたのだろう、とガイは頭が痛くなってきた。見かけは一級品の女性なのに、文字通りの中身はただの変人である。きゅっきゅきゅっとお屋敷を雑巾で綺麗にしつつ、ガイはその隣で箒をはいていた。

周りの人間たちは、どうにも自分たちの関係を勘違いしているらしく、気を利かせてくれたのかさっさとどこかに消えてしまった。だからこそ、ことは妙な発言をして、一人称が俺になっているわけだ。
フッとガイは意味ありげに微笑んだ。こうして俺の出会いが消えていく。ただでさえ女性恐怖症という大きなハードルがあるのに、それをどんと乗り越える形で新たに増設されてしまった。涙が出そうだ。

「なあガイ、美少女って響きときめくよなぁ? ま、俺は美女なんだけどさ」
「はは、そういうセリフは股の間にあるものを切り落としてから」
「チェストォー!!!」
雑巾を顔面にたたきつけられた。


なんなの……このパターンは固定なの……とずるりと顔から雑巾を取り、「くさっ」と鼻を押さえた。さすがに雑巾はないだろう。あっちのバケツよりマシだったかもしれないけれど。「ま、股だなんて……そんな……婦女子に対して不潔よ!」 多分これをつっこんだら第二派が襲ってきそうな気がしたので、ガイはぐっと我慢した。

「お前ホントダメだよ……男じゃないよ……不能なの? イン○なの? E○なの?」
「はっはっは。伏字をすればなんでも許されるって訳じゃないぞー? さすがに怒っちゃうぞー?」
「やっだぁー★ ガイったら短気なんだモン……こあーい」
「さすがにちょっとイラッときたぞ」

自分ではかなり気の長い方だと思っていたのだが、びっくりである。「あんまり人をからかうことはよくないぞ」と言いながら、ガイはポコンとジェスの頭をたたいた。「ぎゃあ! 親にも殴られたことないのにぃー!」 男はみんな俺にメロメロなのにー! と自意識過剰なセリフを吐き出して、こなくそー! と言いながら彼は脱兎で逃げていく。
いや、俺が君にメロメロだったら困るだろ……俺は女性が好きなんだよ……そんなセリフを心の中でつぶやきつつ、おいおい、ここの掃除は俺一人になっちゃうのかな? とため息を吐いた。




「…………思うんだけれども」
ガイが掃除が終わった瞬間、ひょっこりと壁から顔を出したに、さすがのガイも、「こら、さぼっちゃダメだろう」と一喝する。「わりーわりー俺の可愛さに免じて許して」とどう考えても反省していないセリフを口にして、彼はガイの手から雑巾をひったくった。ガイはその様子を見つつ、残りはが終わらしてくれるのかなぁ、とぼんやり考えた。

けれどもはもう一度ガイの手に雑巾を握らせて、首をかしげているガイの目の前から、またまたしゃしゃっと雑巾を引き抜く。何がしたいのだろうか、彼は。「うーん、なんでお前は俺には触れるんだろうなぁ」「そりゃあきみが男だから」「そうって知らないときからだろ?」

まあ確かに。自分は彼のことを完璧に女性だと思っていた。思い返すと、ちょっぴり恥ずかしい。そして彼の言う通り、不思議でもあった。女性だと思い込んでいたのに、彼だけは自分のテリトリーに入れることができなのだ。「……うーん、なんでだろうなぁ」

と二人で雑巾をバケツで絞ってゴミを集めて、もくもくと後片づけをする。はほんの少し気難しげな顔をして、「やっぱりあれだろうな、本能的にわかったんだろ。つまり俺も完璧じゃないってこった。くやしーなー」 悔しいんかい。

ガイはの手から、何の気なしにバケツを取り上げて、よっこらせと持ち上げた。しかしそうした後で、ほんの少し後悔した。まるで女性のように扱ってしまったけれど、彼はれっきとした男である。重いものくらいひょいひょいもてる。案外凶暴だし。
まあいいか。見かけは女性なのだから、あっちに重たいものを持たせて、こちらが楽をするというのはなかなかに嫌な光景だ。それに別にこれくらい重くもなんともない。

「……別にそこまで完璧にしなくていいんじゃないか? 今も十分女性にしか見えないよ」
「やるからには完璧に、妥協は許さぬ男なのだよ! 高嶺の花になるのだ!」

拳をぐいっと突き出す彼は、奇妙に男らしかった。「そういえば、この間きみに付きまとっていた男性はどうなったんだい?」 高嶺の花と言われて思い出した。彼は男の魔の手から逃れるかわりに完璧な女性になろうとしている、奇天烈な人間なのである。

はけろっとした顔をして、「ああ、この間俺がキンタマぶちのめしたアレ? なんだか別の方面に目覚めちゃったらしくて、俺のこと女王様呼ばわりしてくるから、定期的に相手してやってるよ。蹴られるのが幸せなんだと」「そ、それは……」

新たな楽しみを見出してしまったというか、哀れというか、なんていうか。はうんうんうなりながら、「俺のどこがダメなんだろうなぁ……女王様よかお姫様の方が萌えるんだけどなぁ……おしとやか系目指したいんだけどなぁ……なあガイ、どうしたらいいと思う?」

ガイは笑いともなんとも言えないような表情でを見下ろした。とりあえず、キン○マとかそういう系の言葉を口に出さない方がいいんじゃないか、とか。まあそんなことくらいしか思いつかないし。


  

2011.07.27