re/ject

「ガイ、掃除はすべて完璧だ!」


 てってれてれー 



完璧らしい。俺はぽかんとしてを見つめた。そして彼は慌てたように、「か、完璧よ!」と語尾を強調する。周りのメイド仲間たちに気づいたんだろう。
     どうやら彼は一人で掃除を終わらせてしまったらしい。

「おお、えらいじゃないか」とぱちぱち手を打っていると、周りの人間たちは気を利かせたのかそそくさと消えて行ってしまった。別に利かせる気も何もないのだけれど、そこらへんはしょうがない。このごろ否定をするのも面倒くさいので、ははは、とガイは渇いた笑いを出すだけだ。


ふんふんとご機嫌にモップを洗うを見ながら、何かいいことでもあったのだろうか。とガイは勘ぐった。これからを含めたメイドたちの仕事を手伝ってから赤髪のご主人様のところに向かおうかと思ったのだけれど、ぽっかり時間が空いてしまった。

ガイはいつもの要領でひょいっとからバケツを取り上げたあと、「なんでまた?」「うん?」「いいことでもあったのかと思ってね。明日雨でも降るのかもしれないな」

そういってにっこり笑うと、はむうっと眉をひそめた。あからさまに不機嫌な顔だ。ひらひらメイド服の裾をはためかせながら、彼はこっちに背中を向けてどすどすと廊下をはや歩きで去って行こうとする。その姿は彼が目指すおしとやかな美少女からは到底遠い。(うわ)怒っている。

ガイは慌てて彼の横まで走り寄り、手の中にあるバケツの水がはねた。ぴしゃんっ。ひょいとの顔を覗き込むと、顔を真っ赤にしてて、むっと唇を突き出していた。まるで子どもだ。というか、子どもそのものだ。

おそらく自分が彼の機嫌を損ねることを言ってしまったのだろうな、とガイは謝った。「ごめん、悪い……」 ほんの少し迷った後、女性の方の名前で声をかける。これで、じゃねぇ、だ! と真っ赤に膨れ上がってどなられることになれば手につかない。いや、そっちの方がよかっただろうか。彼は相変わらず無言なまま、どすどすと歩を進める。途中に出会った使用人仲間が、「おいおい、彼女の機嫌を損ねちゃだめだぞ」とはやし立てる。勘弁してくれ。

いくら大きなファブレ家とは言えど、廊下の終わりは見えてくるものである。庭に出る扉を前にして、どしんっとは片足を落とした。こっちまで振動が響いてきそうだ。「……別に、いいことがあったから、頑張ったわけじゃねーし……」

ぽそっと聞こえた声に、ガイはひょいとの顔を覗き込んだ。相変わらず眉を寄せているが、先ほどよりも落ち着いた顔色だ。「ん?」「俺、いっつもまかしちまうから、今日くらいはって思っただけで……」

しょんと肩を小さくしながら、ぽそりとこぼされたの声に、ガイは首をかしげる。言葉は断片的だが、つまりそれは。
「俺に悪いって思って、頑張ってくれたのか?」
イエスもノーもない。けれどもそうに違いない。「なんだ」ガイは呆れたように息を吐き出した。はますます肩を小さくする。「それは俺が悪い。本当に悪かった。ありがとう。はいいやつなんだな、知ってたけどね」「アア!? な、何言ってんだてめー!」

顔を上げたは、首筋まで真っ赤にしてガイをにらんだ。怒っているわけではないだろう。「だから、君はいいやつだなぁ、と……? おい?」 驚いたことに、は力の限り照れているらしかった。ガイは何度も瞬いた。はこんな、照れるような人間だったのか。いつも自分の容姿を自慢していて、自信の塊のような人間だと思っていたが、少々違ったらしい。


一応、確認のため。「は美人だな」「当たり前だろ」「はいいやつだな」「ななななな、何言ってんだバッカじゃねーの!?」「は綺麗だなぁ」「ハハン、生まれたときから決まっていたことだ」「は照れ屋でいいやつだなぁ」「なななななな!?」

ぶはっと笑うしかない。なるほど、外見をほめても照れやしないくせに、内面を褒めると恥ずかしくなってしまうらしい。げらげら笑っているガイに、そろそろしびれを切らせたは、ガイの顎を狙い拳を振り上げた。見事にヒットしたそれに、多少頭の中で星を散らしながら、ガイは口の端をにまっと上げて、口元に拳を添えながらけらけら笑い続けた。

「あっはっは、痛いぞ? おかえしだー」
「うぎゃう! お前のチョップもジューッブン痛いわ!」




  
2011.08.01